神社新報 御田植関連記事(抜粋)

神社新報(平成22年6月21日発行)  「こもれび」

お田植ゑの季節に思ふ  

  全国各地の鎮守の杜の木々も深緑の季節を迎へ、木々に芽吹く新緑も薫風に輝きながら色合ひを夏への装ひに整へようとしてゐる。瑞々しく爽やかな風は、新しい季節の息吹を感じさせてくれ、この国に生まれた者に躍動の季節の到来を告げてくれる。新緑が眩しいこの季節は、水田農業にとってもまさに躍動の季節であり、水を湛へ早苗が移植された田圃に家族が集ひ笑顔で楽しく語り合ふ風景や、鎮守の杜の氏神様に稲作の安全と豊作を祈願する風景は、日本の代表的な原風景であろう。

  ところで読者の皆さんは日本国の食料自給率を御存じであらうか。農林水産省の統計によれば、我が国の平成二十年の食料自給率はカロリーベースで四一%となってゐる。昭和四十五年には六〇%であったと言ふから、四十年の間に実に二〇%近くも下落したことになる。主要国の自給率(平成十五年)は、オーストラリア二三七%、カナダ一四五%、アメリカ一二八%、フランス一二二%、ドイツ八四%であり、昭和四十五年と比べるといづれも増加してゐる。イギリスにおいては四六%であったものが七〇%にまで自給率を恢復させてゐる。穀物の自給率(平成十五年)となると一層深刻な状況になり、日本国はOECD(経済協力開発機構)加盟三十カ国中最下位グループ(二十六~二十八番)の二七%となってゐる。お隣の韓国は食料自給率を八〇%(昭和四十五年)から四九%(平成十五年)に低下させてをり、穀物自給率は我が国とほぼ同率の二八%(平成十五年)で推移してゐる。ちなみに、中国は一〇〇%、北朝鮮は七八%の穀物自給率になってゐる。

  農林水産省のウェブサイト「食料自給率の部屋」のデータをもとにした「世界穀物自給率マップ」では、我が国の穀物自給率の色は西南アジアやアフリカの砂漠地帯の諸国と同様の五〇%以下の赤色(レッド)で示されてゐる。食料・穀物自給率は、その国の自然環境・政治経済などの状況、政府としての農業政策・食料安全保障の考へ方などによっても異なるが、人は水を飲まず、食料を食べずには生きられない。まさに生命の根源となるべき物資である。人口を多く抱へる中国・インド・ブラジルなどの国が、新興国として二十一世紀の新産業革命を果たし食料輸入国となりつつある現代社会おいて、自らの国民にいかに安定的に食料を提供するかは為政者としての責務であらうし、他方、日本国民の一人として、食料自給率四一%、穀物自給率二七%、耕作放棄地二十二.三万㌶のこの現状は看過することのできない問題である。

  氏子青年として、生活者として、豊葦原瑞穂国の国民の一人として、これらの危機的な状況がより良き方向に進むことを願ひ、全国の仲間たちとともに「お米づくりとお祭り」「氏神様と神宮様」「を皆で考へる取り組み」「新穀奉納事業-知ろう学ぼう お米づくり-」を展開してゐる。氏青各単位会が奉仕神社と農家の御協力のもと、氏青会員や農家の田圃をお借りして地域の子供たちとお田植行事をおこなひ、秋には稲刈り行事をし、収穫したお米を氏神様と神宮様に子供たちとともに奉納しようといふ取り組みである。このことにより、「お祭りとお米づくり」「氏神様と神宮様」を知り、あはせて「神の恵みと祖先の恩とに感謝する心」を育み醸成しようといふもので、現在、神道青年全国協議会で取り組んでをられる「-知ろう学ぼう お米づくり-稲作に学ぶ日本の”こころ”」とも連動してゐる。すでに全国各地においても幾つかの取り組みが関係者の協力のもと進められてゐるが、お田植行事で真摯に祈る子供たちの姿や、田植を潑刺とおこなふ姿は実に微笑ましく、秋の稲刈り行事や奉納行事で子供たちに再会できる日が待ち遠しい限りである。

  高度経済成長より五十年、バブル景気より二十年、この国のこの時代を生きてゐる若人の一人として、鎮守の杜の若人の取り組みの素晴らしさを「こもれび」の紙面をお借りして伝へさせていただきたいと思ふ。


            全国氏子青年協議会 副会長 鷹野 尚志